DNA検査キットの情報はどのように扱われるのか?その隠されたリスクとは?

社会・政治

海外YouTubeには6年ほど前から「DNA検査を行う」動画が投稿されています。2017年には人気教育チャンネルAsapSCIENCE(登録者数870万人)、BuzzFeedVideo(登録者数1900万人)を筆頭に個人YouTuberも頻繁に検査結果を動画にしていました。

自分のルーツは何だろう? アイルランド系とネイティブ・アメリカン系とアフリカ系とスペイン系の血が入っているはずだけど、割合がいまいちわからない、そうだ!DNA検査をしてみよう!という企画です。複数のルーツがある場合、自分のルーツを知りたいという好奇心をそそる内容ですね。

Our DNA Test Results! | The LAB

しかし、この流行の背後であなたの個人情報が不正に横流しされたら……今回はYouTubeのDNA検査にまつわる動画を元に、DNA検査を行うリスクとその背後でうごめく企業を紹介します。

23andMeの中では何をしている?

2017年9月7日に投稿されたデスティン(SmarterEveryDay)の動画です。DNA検査の企業“23andMe”がスポンサーになっています。23andMeはルーツや祖先を知るための簡易なDNA検査を請け負う企業の代表格です。

DNA Testing and Privacy (Behind the scenes at the 23andMe Lab) – Smarter Every Day 176

まずデスティンはアラバマ州にあるHudsonAlpha Institute for Biotechnologyを訪れて検査の様子を撮影しています。こちらの研究所は23andMeとは別の施設ですが、DNA解析について学ぶために訪問しています。

最初にヒトゲノムをシークエンシングする機械が紹介されています。唾液から一人あたり80ギガバイト分の情報を得られるそうです。シークエンシングはDNAの全データを読み取ることです。これに対して、23andMeでDNA検査をした場合、読み取るのは全体のわずか0.02%ほどだと解説しています。23andMeのようにDNAをピンポイントで読むことをゲノタイピングと呼びます。

その後デスティンは23andMeの検査施設LabCorpの内部を取材しています。23andMeはメールアドレスと顧客番号しか保存せず、LabCorpは顧客番号と送られてきたサンプルの検査だけを請け負います。この仕組みで顧客の情報を安全に保存するそうです。

LabCorpはDNAチップでDNAを読みます。DNAチップは特定のDNA配列がくっつくマス目が無数に配置されたものです1。顧客のDNAを増やして蛍光を発するようにし、DNAチップのどのマス目が蛍光を発するか(どのDNAがくっついたか)を見れば顧客がどのDNA配列を持っているかがわかります。

検査後、顧客がサンプルの保管を望む場合と破棄を望む場合で、サンプルの行き場が変わります。保管を望まない場合、唾液サンプルは破棄されます。

23andMe

23andMe

見学後のデスティンは次のようにまとめています。

  • 23andMeの検査結果は素人には判断が難しい。かかりつけ医にリスクを説明してもらうべき。説明するためには医師にも遺伝学の専門的な知識が必要。
  • 特定の病気に関連するDNA配列があるからといって必ず発症するわけではない。リスクが高かったり低かったりするだけ。健康リスクを知りたくない場合、検査する必要はない。
  • たいていの人は健康リスクを知りたいわけではない。自分のルーツだけを知りたい人が多い。
  • DNAは家族のデータでもあると念頭に置くこと。検査内容を家族と共有するかどうかもあなたの判断次第。

保険加入も危うくなる可能性

2018年3月3日のTYTの動画です。TYTは独立系ニュースメディアです。

DNA Testing Could Kill Insurance Industry

今では消費者はDNA検査を$199(23andMeの場合)で受けられます。しかし、この情報を消費者だけが握っているのは問題だ、と保険会社は主張しています2。保険会社は、DNA検査で何かの病気になる確率が高いとわかった人が、黙って保険に加入するのを危惧しているのです。

しかし、保険会社にDNA検査の結果を知らせると、病気になりやすい人は保険に加入できなくなるか、高い保険料を払わされる可能性があります。幸いアメリカではGenetic Information Nondiscrimination Actという法律があってDNA検査の結果で差別することは禁止されているそうです3が、何らかの方法(検査会社からの流出など)で手に入るなら保険会社は検査結果で差別するかもしれません。

ルーツを知ることにも危険が

2019年4月16日投稿のVerge Science動画です。DNA検査の別のリスクを紹介しています。

The at-home DNA test craze is putting us all at risk

黄金州の殺人鬼』と呼ばれ指名手配されていた連続殺人犯がいました。1970年代から1980年代にかけて、カリフォルニア州で十数人を殺害していました。

事件は長らく未解決でしたが、逮捕に至った決め手はDNA検査の結果でした。犯人の遠縁にあたる3rd cousin(またいとこいとこ、高祖父母が同じである親戚)や4th cousin(またいとこまたいとこ、高祖父母の親が同じである親戚)がDNA検査をして、親戚を捜すためにGEDmatchというサイトに登録していたのです。

こちらの論文によれば、GEDmatchには60万人が登録しているので、米国のヨーロッパ系住民ならばGEDmatchで親戚を探すと、50%近い確率で3rd cousinが見つかるそうです。つまり、犯行現場のDNAからかなりの確率で親戚が見つかります。犯人がGEDmatchに登録している人の親戚だとわかれば、新聞の訃報欄や公的文書を使って家系図を作り、犯人を見つけられます。ある人のまたいとこいとこより近い親戚は平均で850人で、10歳刻みの年齢、性別、出生地を加味すれば、十数人にまで絞れてしまうそうです。

30年前の精子バンクへの提供も、犯罪歴も、GEDmatchをたどれば、あなたにつながる可能性があります。あなたがDNA検査をしたことがなくてもです。あなたのDNA情報はもはやあなただけのものではないのです。

YouTube CEOとのつながり

23andMeの共同設立者であるアン・ウォシッキー(Anne Wojcicki)はYouTubeのCEOスーザン・ウォシッキーの妹です。アンはGoogleの共同創業者であるセルゲイ・ブリンの元妻でもあります。

Alex Rodriguez Is Dating A Woman Worth More Money Than He Is

2016年にはアレックス・ロドリゲスとの交際が報道されていました。アレックス・ロドリゲス(通称Aロッド)はメジャー・リーグのスター選手として活躍していました。

レッドカーペットで撮影されたA・ロッドとアン

Aロッドとアン

ウォシッキー家はエリート家系です。YouTubeで23andMeの検査の動画がおすすめに入っていたのはコネかもしれませんね。

参考:After you spit into a tube for a DNA test like 23andMe, experts say you shouldn’t assume your data will stay private forever
Genetic testing is the future of healthcare, but many experts say companies like 23andMe are doing more harm than good
Anne Wojcicki’s Mom Says Alex Rodriguez Wasn’t Smart Enough to Date the Entrepreneur

Image: National Human Genome Research Institute, Hot News 24:7

  1. DNAチップはDNAマイクロアレイとも呼ばれる。特定の配列(ターゲット)と相補的な配列のDNA(検出用DNAもしくはプローブ)がスライドガラス上に固定されている。調べたいDNAを増幅し、蛍光標識し、一本鎖にしてハイブリダイゼーションする。
  2. この動画の元になっているCBSニュースは、保険業界誌Leader’s EdgeにDNA検査への危機感を示す記事が出たと報じている。
  3. 日本でもゲノム医療推進法案を2019年の通常国会で成立させようという動きがあったようですが、その後報道がありません。
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