スマートシティをGoogle関連会社がトロントで計画 監視社会の懸念も?

社会・政治

米Alphabetの子会社Sidewalk Labsがカナダ・トロントにスマートシティ(スマートコミュニティ)を作ると報道されています。

カナダ政府やトロント市が合同で作った機関Waterfront Torontoによる再開発の一環で、トロントのウォーターフロントのキーサイド(Queyside)と呼ばれる12エーカー(約5万平方メートル)の地域が対象です。

Sidewalk Labsによるスマートシティの提案

2019年6月にSidewalk Labsからの提案が発表されたときのCBS Newsの報道です。

Sidewalk Labs releases plan for Toronto waterfront

いたるところに無線ネット接続があり、カメラがデータを収集し、人や車の移動を追跡します。そのデータを使って効率的に都市を運営します。温室効果ガスの排出も89%削減します。将来的には4万人以上の雇用が生まれます。交通手段(LRT1)も導入します。経済効果は大きいとSidewalk Labsは発表しています。

次の動画は2019年10月の交渉を受けてのCityNews Torontoの報道です。

Sidewalk Labs takes a big step forward

AlphabetはGoogleの親会社なので、Sidewalk LabsとGoogleは「きょうだい会社」ということになります。Sidewalk Labsは技術を結集し、2000戸以上の住宅も提供するとしています。Sidewalk Labsはこの開発に13億カナダドル(約1100億円)を投資すると発表しています。

不安の声が上がっているのは、データの利用です。スマートシティの中の人々のデータを企業が管理し、利用しても大丈夫なのでしょうか? 人々の移動を追跡するならば、プライバシーが心配です。この点に不安があるため、データは「より民主的に説明可能な形で」管理することになりました。また、Sidewalk Labsの開発する地域が2019年6月の提案の190エーカーから12エーカーに大幅に狭まりました。住宅開発もSidewalk Labsが主導する形ではなくなりました。

以上の決定を説明し、交渉が次の段階に進んだことを発表する2019年10月31日のWaterfront Torontoの公式動画です。

Message from Waterfront Toronto Board Chair, Stephen Diamond regarding Quayside – October 31, 2019

The Globe and Mailの報道

カナダの新聞社The Globe and MailがSidewalk Labsについて気がかりな点があると2019年10月30日の記事で指摘しています。

Sidewalk Labs document reveals company’s early vision for data collection, tax powers, criminal justice
Known internally as the ‘yellow book,’ 437-page report from 2016 describes life in a Sidewalk neighbourhood such as Toronto’s proposed Quayside site as an exper...

記事が報じているのは2016年のSidewalk Labsの内部資料です。社員が「黄色の本」(yellow book)と呼んでいる、会社理念を社員に徹底させるための本です。この本によれば、Sidewalk Labsの作る都市の理念は次のとおりです。

  • (フロリダのディズニーワールドのように)大幅な管理権限を都市から得る
  • Sidewalk Labsが徴税権を持ち、学校も管理する
  • 都市内部のすべての人の移動履歴を収集する
  • 訪問者に(個人)情報の提供を要求し、提供しない訪問者には、ネットへのアクセス・自動運転車への乗車・商品の購入を制限する
  • 信用スコアシステムを導入する

The Globa and Mailの記事では、Sidewalk Labsの広報担当者は、「黄色の本」は会社の設立当時のアイディア出しの結果であって、トロントとは無関係だとしています。

「黄色の本」の存在については2018年6月にCNBCも報じていますが、今回の報道についてほかの大手メディアの後追い報道は出ていません2

YouTuberの反応

Sidewalk Labsがどの程度「黄色の本」の方針に沿ってスマートシティを運営するのかは不明です。Sidewalk LabsはWaterfront Torontoに対してかなり譲歩したようにも見えます。

しかし、もし「黄色の本」がSidewalk Labsの真意だとすると、Sidewalk Labsが望めば、スマートシティはディストピア的な監視社会になります。

Sidewalk Labsと「きょうだい会社」であるGoogleの子会社がYouTube社です。YouTuberたちはこれまで、YouTube社が一部のYouTuberを不当に優遇したり、一部のYouTuberを不当に差別したりしていると訴えてきました。

動画が検閲され非収益化⁉︎ データでわかったYouTubeのアルゴリズム的不正【part1/5】
このツイートはあるYouTuberの悲痛な叫びです。毎日のようにSNSではこのような投稿がされています。 YouTubeは言論の自由を保障してくれー!! 検閲しないでェエエ(ゼーゼーハーハー)動画を制作するクリエイターでいたいよ 排除され...

また彼らはYouTubeが特定のキーワードがタイトルに入っている動画の広告を外し、視聴されにくくしているとも訴えていました。しかもこのキーワードは公表されていませんでした。

YouTubeの真っ赤な嘘?非収益化される禁止ワードリストが判明【YouTubeのアルゴリズム的不正part3/5】
多様なクリエイターを支持していることをYouTubeは売りにしています。しかし、表向きの主張と、動画を自動分類するアルゴリズムの動きは一致していません。 こちらは2018年のプライド月間をテーマにYouTubeの公式チャンネルから公開...

このようにYouTubeに不当に扱われてきたYouTuberたちであれば、YouTubeに関連する企業の運営するスマートシティには不信感を持っていてもおかしくありません。

そこで、YouTuberたちがどのように考えているのかを調べるため、YouTubeで“SideWalk Labs Toronto”などのキーワードで検索してみました。記事執筆時点で表示される上位数十個でこの件に関連するものはどれも再生回数が少なく(最大数万再生程度)、あまり関心は持たれていないようです。Sidewalk LabsやWaterfront Torontoの公式動画、そのほか大手メディアの報道を除くと、ますます少なくなります。

次はこの件を扱っている数少ない動画の一つです。チャンネルは登録者数25.6万人のPress For Truthです。

LEAKED DOCUMENT Reveals Sidewalk Labs Smart City DATA COLLECTION And SURVEILLANCE Plan!!!

これはオーウェル的な悪夢3だ、データを提供する奴隷に褒美を与える社会だ、と述べています。

この動画の内容はおよそThe Globe and Mailの記事の要約です。それ以外の部分では、チャンネルがYouTubeに目をつけられてしまって完全にdemonetized(広告が外され収益が得られなくなっていること)だから、募金をしてほしい、と言っています。

Press For Truthはかなり(キリスト教的かつ陰謀論的な)右派チャンネルです。カナダのジャスティン・トルドー首相が息子を性的少数者の権利擁護を謳うイベントに連れて行ったことを非難したり、国連の主導する環境政策を批判したりしています。Sidewalk Labsによるスマートシティ計画についても、個人の自由を擁護すべし、あなたは神(your Creator)によって個人として造られたのだから、と述べています。

左派もこれまで権力による市民の監視に抗議してきました4。しかし、なぜか左派のYouTuberによる批判の動画は見つかりませんでした。The Globe and Mailの記事の確度が低いとみなされているのか、まだIT企業に対する批判は高まっていないのかは不明です。

個人への干渉を嫌う北米の右派の伝統に加えて、右派系ネット陰謀論者アレックス・ジョーンズのYouTubeからの追放も記憶に新しいため、右派YouTuberの方が企業による監視に危機感が強いのかもしれません。

  1. LRT (light rail transit)は次世代型路面電車システム。
  2. The Globe and MailはWikipediaによればカナダの主要紙の一つとされており、メディアとしての信頼性は高い。しかし「黄色い本」のコピーは入手していないと思われる。
  3. イギリスの作家ジョージ・オーウェル(1903年–1950年)のディストピア小説『1984年』のように人々が監視される社会をさす。
  4. たとえばオーウェルは社会主義者で、スペイン内戦で人民戦線側に義勇兵として参加した。
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