ジョン・マクノートン画伯の世界 トランプ美術館へようこそ!久しぶりの実家に妙な絵

おもしろネタ

久しぶりに実家に帰ると自分の部屋がガラクタだらけに……この置物は何だ……また何か買ってる……よくある話ですね! 今回紹介するのは、両親が買い込んでいた絵です。退職して余裕ができたら芸術品や骨董品を集め始める人がいますが、カリ・ファーガソン(Kari Ferguson)さんの両親の場合は、トランプ大統領の絵でした。

……なかなか強烈です。美的趣味はさておくとして、確固とした政治的主張を感じさせます。

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『受け継がれた希望』

この絵はジョン・マクノートン(Jon McNaughton)画伯の作品です。題名は“Legacy of Hope”(『受け継がれた希望』)。サイン・シリアルナンバーつきのものは公式サイトによれば$315(約3万円)です1

ジョージ・ワシントンエイブラハム・リンカーンなど過去の大統領と並び、ハリエット・タブマンフレデリック・ダグラスマーティン・ルーサー・キング・ジュニアなどアフリカ系アメリカ人の地位向上に努めた人々がドナルド・トランプ大統領を取り囲んでいます2

画伯のYouTubeチャンネル(登録者数9810人)の動画によれば、この絵は合衆国の理想があらゆる人々の平等と自由であることを表すために描かれたそうです。

A Legacy of Hope || President Trump and America’s Heroes || Jon McNaughton

この絵の元になっているのは、トランプ大統領が黒人支持者を集めて2020年2月に撮影した写真です。

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(2021年10月23日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

この写真に写っている指導者たちはほぼ全員、熱烈なトランプ大統領の支持者たちです3。画伯が描きたかった理想を表すならば、この写真をそのまま絵画にした方がよかったかもしれません。

以下、マクノートン画伯の作品を紹介します。いずれも、強い政治的主張を放つ作品ばかりです。

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『沼地を渡る』/『デラウェア川を渡るワシントン』

これは“Crossing The Swamp”(『沼地を渡る』)と題された絵です4。題名はトランプ大統領など米国の政治家が「腐敗を一掃する」という意味でよく使うフレーズ“drain the swamp”(沼地を洗い流す)から来ています。

どことなく見覚えのある絵です。そうです、皆さんご存じ、シーズン7まで製作されたドラマ『Veep/ヴィープ』シーズン3のポスターです! 米国初の女性副大統領カマラ・ハリスセリーナ・マイヤーの活躍を描きました。

……ではなく、本当のオリジナルはエマヌエル・ロイツェの『デラウェア川を渡るワシントン』です。

『デラウェア川を渡るワシントン』

エマヌエル・ロイツェ『デラウェア川を渡るワシントン』

1776年12月、大陸軍を率いるジョージ・ワシントンがデラウェア川を渡りトレントンの戦いでイギリス軍を破った事績を記念した絵画です。連戦連敗だった大陸軍が勝利のきっかけを掴んだ戦いでした。この絵の複製はホワイトハウスにも飾られています。

『デラウェア川を渡るワシントン』は凍りついた川とワシントンを照らし出す夜明けの光が劇的な効果をもたらしています。これと比べると、『沼地を渡る』はやや劇的効果に乏しく見えます。大統領が手にしたランプは周囲の人の顔を照らしますが、それ以外の人々の顔もさほど暗くなっていません。希望が明るいのか暗いのか、判然としません。

『トランプのラシュモア山』

続いて、こちらもよく知られた風景を元にした作品です。題名は“Trump Rushmore”(『トランプのラシュモア山』)。

ラシュモア山の彫像です。リンカーン大統領の右側にトランプ大統領が入りました。

『Veep/ヴィープ』のシーズン4のポスターではセリーナ・マイヤーはトーマス・ジェファーソンと入れ替わってしまっています。ジェファーソンかわいそう。

『レジスタンス』/『マドリード、1808年5月3日』

マクノートン画伯は名画を下敷きにした作品をほかにも出しています。こちらは“The Resistance”(『レジスタンス』)と題された絵です。

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(2022年1月2日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

MAGA帽5をかぶったトランプ支持者たちが左翼過激派に攻撃されています。

もちろんオリジナルは、フランシスコ・デ・ゴヤの『マドリード、1808年5月3日』です。ナポレオン軍のスペイン侵攻を描いた傑作です。

『マドリード、1808年5月3日』

フランシスコ・デ・ゴヤ『マドリード、1808年5月3日』

『デラウェア川を渡るワシントン』と『沼地を渡る』には比較する楽しみがありましたが、『マドリード、1808年5月3日』と『レジスタンス』はほとんど同じなので面白みに欠けます。

『ポーカーをする民主党員』/『ポーカーをする犬』

次の作品は“Democrats Playing Poker”(『ポーカーをする民主党員』)です。描かれているのは2020年大統領選の民主党予備選に出馬した人々です6

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(2021年6月20日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

YouTubeチャンネルの動画によれば、画伯の絵を『ポーカーをする犬』並だと言ってきた輩がいたので、それならお望みのものを描いてやろうじゃないかと思ったのが制作のきっかけだそうです。

Democrats Playing Poker – Jon McNaughton

ポーカーをする犬』はカシアス・マーセラス・クーリッジの一連の作品です。『ポーカーをする民主党員』の下敷きになっているのはそのうち“A Friend in Need”(『まさかの時の友』)です。

『ポーカーをする犬』

カシアス・マーセラス・クーリッジ『ポーカーをする犬』より『まさかの時の友』

米国では『ポーカーをする犬』は人気のある絵ですが、庶民の低俗で洗練されていない趣味の象徴として、芸術的価値は認められていないようです。しかし、東海岸・西海岸のエリートが馬鹿にする文化はトランプ支持者が誇りとする文化でもあります。画伯もまたここに立脚しています。

画伯の反骨心はこの絵にはよく作用しました。仕掛けがいくつも仕込まれた『ポーカーをする民主党員』は『ポーカーをする犬』より面白い絵になっています。建国史を描いた名作『デラウェア川を渡るワシントン』に遠慮しすぎて微妙な仕上がりになった『沼地を渡る』や、巨匠の『マドリード、1808年5月3日』を前に完全に萎縮してつまらないパロディーに堕してしまった『レジスタンス』と比べると、伸びやかな絵です。ただし、ちょっとごちゃごちゃしすぎ、『ポーカーをする犬』の軽妙さが失われている嫌いはありますが。

『まさかの時の友』で手前の二頭がテーブルの下でカードをこっそりやりとりしていますが、『ポーカーをする民主党員』でも手前でカードのやりとりがあります。『まさかの時の友』ではランプシェードは無地ですが、『ポーカーをする民主党員』では不思議な模様(プロビデンスの目星と鎌と槌7が描かれています。トランプ大統領の肖像画は彼らの一挙手一投足を見逃さないかのようです。……強い政治的意図を感じさせます。

犬が所狭しと描かれているのは、トランプ大統領がここ100年ほどで唯一の犬を飼わないホワイトハウスの主だったことも関係しているかもしれません。バイデン次期大統領は二頭の犬とともにホワイトハウス入りすると報道されています。

“MAGA Ride”

次の絵は大型バイクでホワイトハウス前を走るトランプ大統領夫妻です(題名は“MAGA Ride”)。

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(2021年8月31日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

国旗が地面に影を落としていないように見えますが、どんな意図があるのかは不明です。国旗に実体はないと言いたいのでしょうか8

『傑作』、そして大統領=画伯=支持者

最後は“Masterpiece”(『傑作』)と題された作品です。

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(2023年4月30日:削除されたツイートをキャプチャ画像で置き換えました。)

アメリカの未来を描く画家としてのトランプ大統領が描かれています9。作品の中で大統領は満足げにほほえみ、覆いを少しだけ持ち上げて未来を暗示しています。

興味深いのは、このトランプ大統領が腰掛ける椅子がマクノートン画伯の椅子に似ているように見えることです。たとえばこちらの動画のサムネイルに映っています(左側)。

New Studio Tour – Mugs for Christmas!

マクノートン画伯は自らの描くトランプ大統領に自分自身を重ねているように見えます。だとすれば、『傑作』は大統領=画伯の望みなのでしょう。そしてそれはまた、画伯の絵を求めるトランプ支持者たちの望みでしょう。支持者が示す大統領への熱狂的な愛と、大統領への同一化は、歴代大統領でもとりわけ強い自己愛を示したトランプ大統領の文化的・心理的遺産なのかもしれません10

  1. Burnish Bronze Frame with Beadの場合。お金を払ってこれを家に飾るのは罰ゲームだと思う。
  2. その他、描かれているのはジョン・アダムズジェームズ・マディソンロバート・E・リークララ・バートンカルヴィン・クーリッジドワイト・D・アイゼンハワージョン・F・ケネディロナルド・レーガンアンドリュー・ブライトバート(!)。画伯本人も左端に書き込まれているらしい。
  3. キャンディス・オーウェンズダイアモンドとシルク姉妹など。
  4. 左から順に、ニッキー・ヘイリージェームズ・マティスベン・カーソン、ドナルド・トランプ、ジェフ・セッションズマイク・ペンスメラニア・トランプマイク・ポンペオサラ・ハッカビー・サンダースイヴァンカ・トランプジョン・ボルトンケリーアン・コンウェイジョン・フランシス・ケリーが描かれている。多くは政権初期の閣僚だが、2020年11月時点で半分以上が辞任もしくは解任となっている。
  5. MAGA帽(MAGA hat)とはトランプ大統領の選挙キャンペーンのキャッチフレーズMake America Great Againが入った帽子。
  6. 後列左からベト・オルークエリザベス・ウォーレンジョー・バイデンカマラ・ハリスバーニー・サンダース、前列左からピート・ブティジェッジコリー・ブッカーが描かれている。
  7. プロビデンスの目はフリーメイソンのシンボルであり、星と鎌と槌はソ連の国旗のモチーフ。どちらも強い風刺的意図があって描き込まれたものだが、(前者はさておき)後者は、マクノートン氏の作品がだいたい社会主義リアリズムのカリカチュアみたいであることを考え合わせると、滑稽な感じがする。『沼地を渡る』で辞任・解任となった閣僚が抹消されたり入れ替えられたりしていなくてよかった。
  8. 多分、描き忘れただけ。
  9. キリスト教中世の伝統的図像である建築家としての神も反映されているかもしれない。
  10. マクノートン氏はオバマ前大統領への憎しみを描いた絵も売っているが、トランプ大統領への愛を描いた絵と比べると売れ行きは悪いだろう。
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